
設計事務所の仕事にAIをどう使っているか、と聞かれることが増えました。
検索すると「建築×AI活用事例」の記事はいくらでも出てきます。ただ中身はだいたい、BIMとの連携、パースの自動生成、議事録の書き起こしです。どれも間違ってはいませんが、うちの事務所で実際に時間を食っているのはそこではありません。
いちばん時間がかかるのは、申請書類です。
そして結論から書くと、いちばん効いたのは書類を書かせることではありませんでした。整合性のチェックです。ここは、人間が一番苦手で、一番事故る場所でした。
同じ様式の書類を、棟数ぶん作る
うちは助成事業の設計を何十棟分も続けて扱っています。この手の仕事は、一棟ごとに申請書と積算書と性能証明書がセットになっていて、それを棟数ぶん繰り返します。
やっかいなのは、一棟ごとに「少しだけ」違うことです。様式は同じ、考え方も同じ、違うのは氏名と住所と工事場所と床面積と建築年——つまり数字と固有名詞だけ。それなのに毎回ファイルをゼロから開いて、頭から埋めていました。
そして間違いが出るのは、いつも同じところです。図面と積算書と申請書、この三つの整合性です。
まず「どの書類を先に見るか」を決めた
最初に手をつけたのは、書類を書かせることではありませんでした。どの書類を正とするかを決めることです。
同じ項目が複数の書類に載っていて、値が食い違うことがあります。そういうとき、どれを信じるか。毎回その場で考えていたので、迷って確認して往復する時間が積み上がっていました。
今は順番を固定しています。
- 元情報のPDF(発注元から届く一次資料)
- 申請書
- 積算書
上から順に見て、上にあるものを正とする。それだけです。決めた瞬間に、迷う時間がなくなりました。
ここには限界もあります。元情報のPDFはスキャンなので、使えるのは印字された部分だけです。手書きの欄は読ませません。読めているように見えて違う字になっていることがあるからです。手書きは人が見る。これは最初に決めました。
建具の数量や寸法も対象外です。現地で実測した値なので、書類のどこにも正解が書いていません。
整合性のチェックは、人間が一番事故る場所
ここが本題です。
申請書類のやっかいなところは、同じ数字が何か所にも出てくることです。図面に描いた寸法が積算書の数量になり、それが申請書の金額になります。床面積も、図面と申請書の両方に出てきます。一か所を直すと、別のどこかが合わなくなる。この突き合わせが、とにかく人間に向いていません。
三枚までなら、まだ目で追えます。何十ファイルになると無理です。しかも退屈なので、忙しいときほど飛ばします。飛ばしたことにも気づきません。
図面の判断や法規の解釈で事故ることは、実はそう多くありません。そこは考えて出している分、慎重になるからです。事故るのはいつも、合っているはずの数字が合っていなかったというところです。
積算書は物件ごとにファイルが分かれていて、中に外部リンクや数式が入っています。ここで起きるのが、数式が値で上書きされているという事故です。誰かがセルに直接数字を打ち込むと、数式が消えます。ところが画面上は普通に数字が出ているので、見ても分かりません。元の数字が変わっても、そこだけ追随しなくなります。
全ファイルをまとめて検査する仕組みを作りました。見ているのは三つです。
- 外部リンクが切れていないか
- 数式が値で上書きされていないか
- 助成の限度額を超えていないか
これが本当に効きました。目視で見つけられない種類の間違いがある、というのがこの話の要点です。逆に言えば、目で見て分かる間違いは、わざわざ仕組みにしなくてもいい。
審査の指摘200件を、チェック表にした
整合性と並んで効いたのが、これです。
提出した図面には、審査側から指摘が入ります。PDFに注釈の形で返ってくるので、その場で直して再提出する。それで終わりにしていました。
あるとき、過去の指摘を全部抜き出してみました。200件以上ありました。
並べてみて分かったのは、同じ指摘を何度も受けていたことです。一件ずつ対応しているときは気づきません。直して出して終わり、また次の物件、の繰り返しだからです。
これを「提出前セルフチェック表」にまとめました。出す前に自分で当たる項目のリストです。
人力では無理な作業だと思います。何十件ものPDFを開いて注釈だけを拾い、重複をまとめて、頻度の高い順に並べる。やろうと思えばできますが、まずやりません。忙しいときほどやりません。
ChatGPTとClaude、どう使い分けているか
使っているのは二つで、役割が違います。
人間的な相談はChatGPTです。人にどう伝えるか、どう断るか、言いにくいことをどう切り出すか。答えが一つに決まらない話を、考えを整理しながら相談する相手として使っています。現場や移動中にスマホで聞くのもこちらです。
実装はClaudeです。スクリプトを書く、書類を作る、ファイルをまとめて処理する。手が動く作業のほうです。この記事で書いてきた積算書の検査やチェック表の作成は、全部こちらで作りました。
そしてどちらにも共通して任せているのが、チェックです。
チェックは人間が苦手な作業だと思っています。同じ書類を何十枚も見比べる。同じ指摘を何度も受けていたことを覚えておく。数式が生きているか一つずつ確かめる。どれも集中力が要るのに退屈で、そのうえ忙しいときほど飛ばします。しかも飛ばしたことに気づきません。
苦手なことを気合いで続けるより、渡してしまったほうが早い。使い分けの基準は、結局そこに落ち着きました。
まとめ
振り返ると、任せたのは判断ではありませんでした。
- 繰り返し(同じ様式を棟数ぶん)
- 照合(書類どうしの突き合わせ、数式の検査)
- 蓄積(指摘を貯めて次に生かす)
この三つです。言い方を変えれば、どれもチェックでした。人がやると時間がかかるか、忙しいと飛ばしてしまうものばかりです。
ただし、任せてはいけない仕事もはっきりありました。自動で直してはいけない数字があり、出てきたものを全部は信用できません。そちらは次の記事に書きます。
※この記事は当事務所の実務にもとづく参考情報です。制度や様式は事業ごとに異なります。また、記事の内容に関する個別のご質問・ご相談は受け付けておりません。
この記事について
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